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神戸地方裁判所 平成7年(ワ)1906号 判決

反訴原告

壷内栄之輔

ほか一名

反訴被告

金谷源一こと金才源

主文

一  反訴被告は、反訴原告壷内栄之輔に対し、金九一万六九五四円を支払え。

二  反訴被告は、反訴原告雲井泰貴に対し、金二五万六八六二円を支払え。

三  反訴原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを一〇分し、その三を反訴原告らの負担とし、その余を反訴被告の負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  反訴被告は、反訴原告壷内栄之輔に対し、金一三五万四〇二四円を支払え。

二  反訴被告は、反訴原告雲井泰貴に対し、金三六万〇〇六二円を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、後記交通事故(以下「本件事故」という。)により損害を被つたと主張する反訴原告らが、反訴被告に対し、民法七〇九条に基づき、損害賠償を求める事案である。

なお、本件の本訴(本件の反訴被告が原告、反訴原告らが被告の当裁判所平成七年(ワ)第一二六四号債務不存在確認請求事件)は、訴えの取下げにより終了した。

二  争いのない事実

次の交通事故が発生したことは、当事者間に争いがない。

1  発生日時

平成七年六月一七日午後九時一五分ころ

2  発生場所

神戸市東灘区住吉東町三丁目一三番二三号先路上

3  争いのない範囲の事故態様

反訴原告壷内は、普通乗用自動車(神戸五〇の六四五〇。以下「反訴原告車両」という。)を運転し、右発生場所で赤信号にしたがつて停止していた。

そこに、後方から、反訴被告が運転する普通乗用自動車(神戸五〇の九九八八。以下「反訴被告車両」という。)が追突した。

なお、反訴原告雲井は、反訴原告車両に同乗していた。

三  争点

本件の主要な争点は次のとおりである。

1  本件事故の態様及び反訴被告の過失の有無

2  反訴原告らに生じた損害額

四  争点1(本件事故の態様等)に関する当事者の主張

1  反訴原告ら

本件事故に関し、反訴被告には、前方不注視、車間距離不保持、ブレーキ操作不適当の過失がある。

したがつて、民法七〇九条により、反訴被告は、反訴原告らに生じた損害を賠償する責任がある。

なお、本件事故の発生場所は、平坦な道路である。

2  反訴被告

本件事故の直前、本件事故の発生場所において、赤信号にしたがつて、反訴原告車両及び反訴被告車両は、続いて停止した。

この時、反訴被告がよそ見をしてブレーキペダルから足が離れ、本件事故の発生場所が坂道であつたために、反訴被告車両が前進して反訴原告車両にくつつくように接触した。

したがつて、このように軽微な接触により、反訴原告らに傷害が生じることはありえないし、反訴原告車両に損傷が生じることもありえない。

第三争点に対する判断

一  争点1(本件事故の態様等)

1  反訴被告は、本件事故は、反訴原告らに傷害が生じたり、反訴原告車両に損傷が生じたりすることのありえないごく軽微な接触である旨主張し、甲第八号証、反訴被告本人尋問の結果の中には、右主張に沿う部分もある。

しかし、甲第五ないし第七号証、乙第四号証、第五号証の一、第六号証の一及び四、丙第一号証、反訴原告らの各本人尋問の結果によると、反訴原告壷内は本件事故直後(甲第七号証により、事故当日である平成七年六月一七日午後一一時五分ころであることが認められる。)に、医療法人愛和会金沢病院(以下「金沢病院」という。)で医師の診察を受けていること、この際、同原告は、頚部捻挫の診断を受けたこと、同原告は、続いて、同病院に、同月一九日、二〇日、同年七年一七日の四回通院していること、同原告は、同病院の医師に、頚部、後頭部、腰部の圧迫感及び鈍痛を訴えていたこと、同原告は、仕事の関係で、同日、神吉外科医院に転院したこと、同原告は、同医院に、同日から同年九月四日まで通院したこと(実通院日数一五日)、同原告は、この間も、同医院の医師に、同様の症状を訴えていたこと、同原告には、第五、六頚椎椎間腔狭少等が認められ、同原告の訴える症状については医学上の裏付けが一応得られていたこと、反訴原告雲井は、平成七年六月二〇日から同年七月二二日まで、神吉外科医院に通院したこと(実通院日数四日)、同医院では、頚腰部捻挫、両肩鎖関節損傷、右股関節損傷、右大腿筋損傷断裂の診断を受けたこと、同原告は、同医院の医師に、頚部、腰部、肩部、両下肢部等の痛みを訴えていたこと、治療の結果、反訴原告らの症状は好転し、反訴原告らは、いずれも、痛みが軽減したために、自らの判断で通院するのを中止したことが認められる。

そして、右事実によると、反訴原告らの右各傷害と本件事故との間の相当因果関係を優に認めることができる。

なお、甲第八号証は、実況見分調書二通、反訴原告らの診断書、交通事故証明書、反訴原告車両及び反訴被告車両の自動車検査証、写真のみを資料に、作成者の推論を記載した書面(書面の題名は「鑑定書」)であるところ、右資料の範囲、推論の基礎となる資料の範囲、推論の方法論、現時点における工学鑑定の手法と人類の知見の限界との関係(いずれも当裁判所に顕著である。)等に照らすと、右認定事実を覆すに足りるものではない。

2  そして、反訴被告本人尋問の結果によると、本件事故の直前、本件事故の発生場所において、赤信号にしたがつて、反訴原告車両及び反訴被告車両が続いて停止した後に、反訴被告がよそ見をしてブレーキペダルから足が離れたために本件事故が発生したことが認められるから、本件事故に関し、反訴被告に過失があることは明らかである。

なお、反訴被告は、本件事故の発生場所は下り坂であつた旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、むしろ、甲第二号証、乙第一号証によると、本件事故の発生場所は平坦であつたことが認められる。

二  争点2(反訴原告らの損害額)

争点2に関し、反訴原告壷内は別表1の、反訴原告雲井は別表2の、各請求欄記載のとおり主張する。

これに対し、当裁判所は、以下述べるとおり、各表の認容欄記載の金額を、反訴原告らの損害として認める。

1  反訴原告壷内

(一) 治療費

乙第五号証の二(金三万八八五〇円)及び三(金三万八五六〇円)、第六号証の二(金五万六二〇三円)、三(金四万一六九〇円)、五(金一万四六七一円)によると、治療費合計金一八万九九七四円を認めることができる。

ただし、反訴原告壷内の主張する治療費は金一六万二七七四円であるので、この限度で認めることとする。

(二) 休業損害

乙第八号証、反訴原告壷内の本人尋問の結果によると、本件事故当時、同原告は、阪本土木に一日金一万一〇〇〇円の日当でアルバイト勤務をしていたことが認められ、弁論の全趣旨によると、右認定の同原告の通院日数合計一九日間は、同原告は就労することができなかつたと認めるのが相当であるから、同原告の休業損害は、次の計算式により、金二〇万九〇〇〇円となる。

計算式 11,000×19=209,000

(三) 交通費

反訴原告壷内の本人尋問の結果によると、同原告の主張する交通費は、自宅から病院までの通院交通費(バス代)であることが認められるところ、右認定の同原告の通院日数合計一九日間にわたつて、一日あたり、当裁判所に顕著である神戸市バスのバス代金二〇〇円の往復金四〇〇円の割合により、交通費を認めるのが相当である。

したがつて、交通費は、金七六〇〇円となる。

(四) 修理費

反訴原告壷内の主張する修理費(乙第七号証)のうち、代車費用は、車両が使用不能の期間に代替車両を使用する必要があり、かつ、現実に使用したときに、相当性の範囲内で当該交通事故と相当因果関係のある損害となるというべきである。

そして、同原告の本人尋問の結果によると、同原告は、反訴原告車両の修理を未だ現実には発注していないことが認められるから、代車費用を本件事故と相当因果関係のある損害として認めることはできない。

したがつて、本件事故と相当因果関係のある損害は、乙第七号証のうち、代車費用を除く金八万五〇三〇円及びこれに消費税相当額(右金員の三パーセント)金二五五〇円(円未満切り捨て。)を付加した合計金八万七五八〇円とするのが相当である。

(五) 格落ち損

交通事故により車両に損傷を被つた場合、修理してもなお価格の減少があるときには、これは格落ち損として、当該交通事故と相当因果関係のある損害であるというべきである。

しかし、右格落ち損は、単に当該車両に事故歴があるというだけでは足らず、修理技術上の限界から、当該車両の性能、外観等が、事故前よりも現実に低下したこと、または、経年的に低下する蓋然性の高いことが立証されてはじめて、これを認めるのが相当であると解される。

そして、本件においては、右認定のとおり、反訴原告壷内は反訴原告車両の修理を未だ現実には発注していないことが認められ、右各事項は未だ立証されていないから、格落ち損を認めることができない。

(六) 慰謝料

反訴原告ら及び反訴被告の各本人尋問の結果によると、本件事故直後、本件事故の発生場所において、反訴原告らと反訴被告との間で揉め事が生じたこと、反訴被告は、興奮の余り、すぐ近くの自宅からビールを取り寄せ、これを飲んだことが認められる。

また、甲第七号証、乙第五号証の一、第六号証の一及び四によると、反訴原告壷内は、反訴被告と揉めた際、顔面挫傷、頚部両肘部擦過創の傷害を受けたこと、右傷害はほとなく治癒したことが認められる。

そして、本件事故の原因が反訴被告の一方的な過失にあることを考えると、本件事故直後の反訴被告の右行動は、適切な配慮を欠いた甚だ不穏当なものであつたと評価せざるをえず、このことも、反訴原告らの慰謝料算定の一事由となるというべきである。

そこで、右事実に、右認定の本件事故の態様、反訴原告壷内の傷害の部位、程度、通院期間、その他本件に現れた一切の事情を併せて考慮すると、本件事故により同原告に生じた精神的損害を慰謝するには、金四五万円をもつてするのが相当である。

(七) 合計

(一)ないし(六)の合計は、金九一万六九五四円である。

2  反訴原告雲井

(一) 治療費

丙第二号証により、金五万五二六二円が認められる。

(二) 交通費

反訴原告雲井本人尋問の結果によると、同原告の主張する交通費は、自宅から病院までのタクシー代(往復四回分)であることが認められる。

ところで、タクシーによる病院への往復のために要した交通費が、交通事故と相当因果関係があるというためには、傷害の部位、程度等に鑑み、タクシーによる通院の必要性・相当性が認められることを要するというべきところ、右認定の同原告の傷害の部位、程度によると、これを認めることはできない。

そして、右認定の同原告の通院日数合計四日間にわたつて、一日あたり、当裁判所に顕著である神戸市バスのバス代金二〇〇円の往復金四〇〇円の割合により、交通費を認めるのが相当であるから、交通費は、金一六〇〇円となる。

(三) 慰謝料

右認定の本件事故の態様、反訴原告雲井の傷害の部位、程度、通院期間、本件事故直後の反訴被告の行動、その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件事故により同原告に生じた精神的損害を慰謝するには、金二〇万円をもつてするのが相当である。

(四) 合計

(一)ないし(三)の合計は、金二五万六八六二円である。

第四結論

よつて、反訴原告らの請求は、主文第一項及び第二項記載の限度で理由があるからこの範囲で認容し、その余は理由がないからいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 永吉孝夫)

別表1(反訴原告壷内)

別表2(反訴原告雲井)

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